貞観地震(じょうがんじしん)・貞観津波(じょうがんつなみ)について福島民友は、専門家、以前から警告と題して5段抜きで掲載2011年3月28日付掲載文から

 津波に薄かった危機意識

 マグニチュード(M)9.0の東日本大震災で高さ14b以上とされる大津波が直撃した東京電力福島第一原発。浸水で非常用発電機のほとんどが壊れ、原子炉の冷却機能を失った。新潟県中越沖地震など原発が次々と地震に見舞われ、国や東電は地震の揺れへの対策は急いだが、専門家の警告にもかかわらず津波への危機意識は薄かった。

 ■大津波  869年・貞観地震―石巻から浪江まで津波痕跡

 「869年の貞観の地震は、津波に関しては非常にでかいものが来ている。全く触れられていないのは納得できない」。2009年6月、経済産業省で開かれた審議会の席上、独立行政法人産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の岡村行信活断層・地震研究センター長は、東電の報告に厳しい言葉で意義を唱えた。

 06年に改定された国の原発耐震指針に沿って東電は、08〜09年、福島第一原発の再評価結果を国に提出。海と陸のプレート間で起きるM7.9の地震などを想定したが、近年の研究でM8以上とされた貞観地震については、特別な考慮をしなかった。従来、最大5.7bと見積もってきた津波の再評価は、先送りされた。

 岡村さんの追及に対し、東電は学会で提案されている震源モデルを基にして、原発への影響は「想定の範囲内」と主張。「貞観地震については、まだ情報を収集する必要がある」として事実上、評価を棚上げした。

               

 ■証 拠

 貞観津波を研究する産総研の宍倉正展海溝型地震履歴研究チーム長(古地震学)によると、宮城県から本県(福島県)の太平洋岸には、過去に津波が繰り返した証拠となる、複数の砂の層が地中で見つかっている。津波は、4世紀ごろと室町にも起き、500年程度の間隔で起きた可能性が高いという。年代測定で、貞観津波の痕跡と特定できたのは宮城県石巻市から(福島県)浪江町までだが、砂層は茨城県日立市近辺まで広がっていた。宍倉さんは「原発の防災上、少なくとも高さ10b程度の津波を想定しておくべきだったのではないか」と指摘する。

 岡村さんも「石巻―浪江は確実な部分だけで、ほかにもグレーの部分はある。砂の侵入は内陸3〜4`だが、津波自体はもっと奥まで進んだどろう」と指摘。厳密な証拠を求める科学研究と、想定外にも備える必要のある原発の防災対策を混同するべきではないと指摘する。

 ■過小評価

 原発の耐震安全性審査会をめぐっては、これまでも同様のことが指摘されてきた。

 地下の活断層がつくる地表の“たわみ”の存在が中国電力島根原発(島根県)、日本原子力発電所敦賀原発(福井県)など指摘されてきた。いずれも研究者の間では広く知られているが、科学的な異論が残ることなどを理由に原発防災には活用されていない。

 原発と活断層の問題に詳しい名古屋大の鈴木康弘教授(変動地形学)は「最新の知見を原発の防災に生かせるよう、国の安全審査は広く第三者の意見を取り入れるなどの抜本的改革が必要だ」としている。

3.11東日本大震災報告トップへ戻る