コラム「凡言録」より7月11日
「ヒドリノトキ」
昔の記者仲間が「花巻市の温泉宿に集まって懇親した翌旦宮沢賢治を巡った。花巻農学校校教師を依願退職した賢治が自炊生活をした下根子の宮沢家宅跡地を訪ねる。羅須地人協会を置いた所だ。車を降りてりて「雨ニモマケズ」の詩碑へ向かう。道端に青い皮のクルミが落ちていた▼
有名な告知板「下の畑にいます」が立っていた。賢治は来訪者のために、黒板に白墨で書いたという。別宅の高台から東の方を望むと、北上川がほのかに足える。「下の畑」は川近くの木立の陰にあった▼
詩碑は高村光太郎の筆だ。「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」のところは、「デ」が〔デ〕と括弧に入っていた。宮沢賢治記念館の売店で、復刻した腎治の「手帳」を見ると、鉛筆で書き残した「雨ニモマケズ」の原文は「ヒドリノトキハ…」となっている▼
「ヒデリ」は「日照り」、次行の「サムサノナツ」は「寒さの夏」で、日干害と冷害の対比で理解される。「ヒドリ」は「日取り」で、日当稼ぎだとする解釈もある。原文をいつ、誰が変えたのか。(7月11日)