コラム「凡言録」より6月1日
原発てんでんこ
しばしば大津波に襲われた岩手県三陸地方には「津波てんでんこ」という言葉がある。凄まじいスピードと破壊力のある津波から逃れて助かるには、薄情なようでも親でも子でも兄弟でも人のことなどかまわずに、てんでんばらばらに、急いで逃げなさいということ。明治三陸津波の重要な教訓だという▼
「津波てんでんこ」は「哀しい教え」だ。誰かの手助けがなければ避難できない、体の不自由なお年寄りや障害者の方々の避難はどうするのか、心情的に割り切れない人倫の問題が残る(山下文男『津波てんでんこ』)▼
原発事故で福島県の避難者は県内のほか、県外へは全46都道府県に3万5670人(5月23日現在)が避難。このほか自主的に相当数が避難していると推定される▼
目に見えない放射線から逃れるため、原発からできるだけ遠い所に、先を争うようにして各地に避難したのだ。1号機が水素爆発した3月12日、人々はそれぞれ避難を始めた。「原発てんでんこ」だ。その後自治体こぞっての避難、集団避難が続いた。(6月1日)